ビックリした映画『オレンジと太陽』

急に時間が3時間ほど空き、ふと入った岩波ホールで出会った映画『オレンジと太陽』。行き当たりばったりでしたが、大変な収穫がありました。
映画は、英国の児童移民を扱ったものです。移民先は、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ローデシアなどの英連邦の主要国家。つい40年前まであった実話です。

児童移民? 日本では聞きなれない言葉ですが、英国では17世紀から1970年代まで行われた強制移民で、対象は3歳~15歳の子供たち。19世紀からでも13万人の児童が、親にも知られず、だまされるような形で移民となっていました。タイトルの『オレンジと太陽』は、行く先のオーストラリアは「陽光が降り注ぎ、オレンジが食べられる夢のような国」と言って子どもを連れだす常套句だったのです。しかし待っていたのは大人による酷使、日常的な飢え、レイプや虐待など、真っ暗な世界でした。しかしこれは国の政策であって、ならず者の仕業ではありません。多分英国民の殆どが知らされていなかった、闇に隠れた政策と言えるものです。
自国民さえ知らないんだから、日本人の私が知るべくもない。「えっ、ついこの間までそんなことが!」が第1の衝撃でした。70年代と言ったら、ディケンズ「オリバーツイスト」の19世紀ではない。第2次大戦後もずっと続いていた現代の話。しかもあの英国で??!

なぜ闇に隠れていたんだろう?が第2の衝撃でした。
連れ去られた子どもたちは、親を亡くして孤児院にいる子、婚姻外で生まれたいわゆる私生児(「娼婦の子」「スキャンダルな子」と言われた)、経済的な事情で施設に預けられている子などです。本人にも親にも知らせないまま、集団で船に乗せて国外に送り、労働者として、また大人の慰みものとして扱えたのは、そうした児童への社会的蔑視や差別観があってのことでしょう。
英国の海外植民地や自治領に移民させられたのは囚人も一緒でした。
社会の厄介者だったり邪魔者だったりの者には人権を斟酌する者もいないのが常。これ幸いと言うように、移民を目的に設立されたNGOやキリスト教団体が仲介機能を果たしました。だって、れっきとした「利益誘導の政策」だったからです。オーストラリアへの児童移民では、英豪両政府が補助金まで出しています。受け入れ先の農場や教会は慈善の美名のもとに、ただ同然の労働力を得ることになります。神父たちが児童をレイプの対象にするという宗教関係者の偽善も今回描かれました。だからこそ公になっては都合が悪い。そこで、記録もろくに残さないようにして、3世紀にわたる事業が密かに続いたのですね。国家というものはまことに恐ろしいことをするもんです。

国やエスタブリッシュメント(上層・支配階層)に捨てられた子どもたちは、自分の出自も本名も分からずに、アイデンティティを失い、人格をスポイルされて苦しみます。
映画は、長じて「私は何者?」「母親に会いたい」と彷徨をする元移民孤児たちが登場します。その言葉の数々が第3の衝撃でした。「自分は無だ。何の価値もない」と思い定めなければ生きられなかったという、泣き続けて8歳を最後に泣き方を忘れたという・・・無数の言葉。悲惨な情景。語っている人は、自分とそう変わらない年代の人たちです。やはりショックです。

ちなみに、英豪両政府が児童移民について公式に認め、その不公正と醜さについて謝罪したのは2009年11月。つい2年半前のことです。

良ければ上映機会を見つけて(あるいはビデオで)観てください。
『オレンジと太陽』
原題:Oranges and Sunshine
監督:ジム・ローチ
出演:エミリー・ワトソン、デイヴィッド・ウェナム、ヒューゴ・ウィーヴィング
製作:2010年/イギリス
時間:106分
※ジム・ローチ監督のお父さん、ケン・ローチの「麦の穂をゆらす風」(2006年)も、素晴らしい映画でした。ちょっと重いけど。

(油井文江)

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コメント: 1
  • #1

    Bee (土曜日, 16 12月 2017 12:07)

    東京オリンピックが行われたり、ツイギーやビートルズが世界中で人気になったり
    テレビや自動車が一般人にも少しづつ普及し先進国はかなり豊かになって
    そんな時代にまだ先進国で無理矢理児童移民
    それも悪党業者ではなく政府がやっていたということに非常に驚きました

    せめて受け入れた方の教会や農場の人だけでもまともだったら良かったのに
    欧米ではというか日本でも教会の牧師神父の子ども虐待は多いです。
    最近は勇気を持って被害者が名乗り出ていますが、まだ知られていない事件は多いと思います。