2014年

8月

14日

クオーター制の「なぜ」と今 ―2つのレモン論

 「今のオスロではいたるところで子守をする男性の姿を見るが、それはこの10年ぐらいの話だ」。世界で初めて取締役会の4割を女性とするクオーター制を導 入したノルウェーの女性リーダー、企業多様性センター代表M・ホエルさんの話です。ホエルさんのクオーター制を語るインタビュー記事は、日本経済新聞「W の未来」(2014年6月28日)に掲載され、大変評判になりました。

 クオーターとは割当、分配の意味です。クオーター制は、主に女性 を対象に活躍の割当を一種強制的に進めようというもので、ノルウェーでは、取締役会など経営中枢への女性の進出に大きな効果を上げています。一律の数値に よる強制には反対も多いですが、なぜ割当制を掲げなければならないかというと、変化を加速させるツールが必要と言う点に尽きるようです。

 米国の非営利団体カタリストの元代表A・ラング氏は、「自然のままの変化にゆだねておくと、役員会レベルでの男女均等を実現するには70年かかる」と発 言。賛否両論のEUでも「現状の増加率では役員会で適切な男女バランスを実現するには40年以上かかる」とコメント。企業に強制するのは正しくないと分かっているが、そうでもしないと変化のスピードは上がらないというのです。

 ではなぜ変化を急がなければならないのでしょうか。そこには、現在の経営がおかれる厳しい競争と淘汰の環境があります。成長が止まった先進国経済の中で、数少ない伸び代の一つが「女性」であり、その活躍のインパクトが世界共通の認識となっているからです。

 クオーター制導入には、大きく3つの効果があるとされます。それは、①労働力面:女性の働く意欲を高めて労働力不足を解決する、②市場面:購買決定権の 7~8割を握る女性が生産(商品開発等)と消費の両面で経済を活性化させる、③経営業績面:女性役員が多い企業ほど業績向上が果たせる、というものです。 例えば業績面の効果を見ると、マッキンゼー&カンパニーの調査では、女性の役員比率が高い企業は、役員が男性のみの企業に比べると、ROE(株主利益率) が41%も高いのです(同社「Women Matter」2010)。

 女性の活躍をクオーター制で高めたノルウェーでは、制度が提案さ れた2002年の女性役員比率は6%程度でした。それが期限の2008年までにはすべての対象企業が40%の条件を満たし、強制閉鎖される企業はありませ んでした(ちなみに日本は2014年現在1%)。しかし、当初は経済界が猛反発し大騒ぎだったそうです。「そんなことをしたら経済が壊れる」「株が暴落す る」「ノルウェーから企業はいなくなる」と。

 結果はどうだったかと言えば、産業界が懸念したような経済の失速は起きませんでした。

 逆に社会の情報開示や法令順守対応が進んだこと、そして社会全体が変わったことが大きな成果でした。女性が働くことや、男性も仕事と家庭を両立させること が当たり前になり、出生率も世界のトップクラスになったのです。これが冒頭の「いたるところで子守をする男性の姿を見る」につながります。

 ノルウェーには、パパ・クオータと呼ばれる男性を対象とした育児参加のクオーター制もあります。父親が育児休暇を取らない場合には休暇の権利が消滅すると いうもので、父親の割当は12週ですので、約3カ月分の取得権利を失います。これも父親と母親の育児負担をならし、女性がより活躍するための強力な策となりました。

 M・ホエルさんはクオーター制を2つのレモンに例えて語ります。「1つのレモンは男性。経済危機や高齢化に直面したとき、あ る国々はすでに絞られているこのレモンをもっと、もっと絞ろうとする。それで生産性は上がるだろうか。私たちがやろうとしたことはそうではなく、同じテーブルにもう1つのレモンを置くことだ。つまり、高い教育を受け、意欲もありながら、まだ十分に活用されていない女性という新鮮なレモンを」と。そして「大切なのは、この2つのレモンの背景にある経済の現実を理解し、行動することだ」と。

 ノルウェーにおけるクオーター制は、女性だけの特権ではなく、社会・経済活動を自然な男女の比率に近付けて、女性の活躍伸び代を経済成長につなげていこうという手法です。

 10年間で社会を大きく変えたというこの手法、女性の活躍度合いが世界でも最低位とされる日本では、他国にも増して参考になるのではないでしょうか。

(油井文江)